帝国データバンクが2019年9月に公表した調査によれば、同年の道路貨物運送業者の倒産件数は6年ぶりに増加へ転じる見込みとなった。

最新データは公表されていないが、業界の中では2018年を上回ったという見方が大勢だ。負債額も3年ぶりに200億円を超えた可能性が濃厚で、業界全体が厳しい景況にある現実が浮き彫りとなった。
要因としては、トラックドライバーの不足や燃料価格の高騰が挙げられる。
近年はEC(ネットショッピング)が急成長中。経済産業省のデータによれば、2018年の市場規模は18兆円に迫り、2010年から右肩上がりだ。

成長率こそ110パーセント台前半から100パーセント台後半へわずかに落ちたが、日本のEC化率(全取引に占めるEC取引の割合)は全産業で6.22パーセントと未だに低い(中国は15パーセント、アメリカは10パーセント)
日本は消費者・事業者とも、諸外国に比べてキャッシュレス決済に対する抵抗感が根強く、特にITリテラシーが低い年配者を中心に普及が進んでいない。だが、今後は日常的にECにふれている若年層がビジネスの中心に立つため、EC市場の成長は加速すると考えられている。
しかし、肝心の商品を運ぶ物流会社は苦境だ。特にトラックドライバー不足が深刻化している。
帝国データバンクによれば、2018年のいわゆる人手不足倒産件数は、建築業界、サービス業に次いで運輸・通信業が3位。前年比増減率で見ると87.5パーセント増と、調査対象業界の中でトップだった(なお、運輸業界のみの増加率は不明)

燃料価格も2016年に底を打って以降は上昇を続けており、下がる様子は見られない。加えて、労務管理問題に伴うコスト増や宅配料金の上昇なども業界に追い打ちをかけている。

中でも悲鳴を上げているのが中小企業だ。取扱量が爆発的に増加したため車両を増やしたものの、ドライバーが足りずに維持費だけ嵩み、経営を圧迫されている法人が多い。ドライバーを雇い入れようにも、中小企業は充実した待遇を用意できず、採用は捗らない。結果、待っているのは倒産というのが実情だ。
阿部観(あべ・みつる)氏の経歴
だが、そんな中でも成功した経営者はいる。その一人として有名なのが、軽貨物配送会社・愛商物流を立ち上げた、阿部観(あべ・みつる)氏だ。
かつては物流企業グループの経営者として活躍し、現在は株式会社ネクシィーズグループ代表近藤太香巳氏、GMOインターネット株式会社代表熊谷正寿氏、楽天株式会社代表三木谷浩史氏など日本の名だたる経営者が顧問を務める一般社団法人パッションリーダーズの活動に副理事として従事している。
また一般社団法人愛商塾の代表として軽貨物運送事業の独立人材の育成にも注力。これまでに120人以上の経営者を輩出し、その50人以上が平均年商2億円を突破。全経営者の年収は平均1,500万を超えているという。

阿部観氏がプロデュースした愛商物流以外に3社、2019年4月に刊行された「日本の軽貨物運送 優良企業30社」(発行:学研プラス、編集:一般社団法人軽四貨物総研)にも選出されるなど、今なお業界一流の企業として注目を集めている。
阿部観氏は愛知県名古屋市で生まれ、高校時代は数多くの一流プロ野球選手を排出した愛工大名電高校の野球部に所属。シアトル・マリナーズなどで活躍したメジャーリーガーのイチロー(2年後輩)らと共に汗を流した。
その後、同地で飲食業を営むも軌道に乗らず止むなく撤退。1999年に東京へ拠点を移し、町田市で愛商物流株式会社を起業する。
同社は急成長を続け、現在は東京と神奈川を中心に軽貨物輸送や倉庫事業など物流関連事業全般を展開している。阿部観氏自身は既に代表を退いており、2010年に立ち上げた一般社団法人愛商塾の代表として精力的に活動。独立・起業志望者の支援に取り組み、実績を上げている。
ビジネスパーソンの経歴としては、東証一部上場・SBSホールディングスの代表、鎌田正彦氏など一流の物流経営者とふれあい、物流企業の経営ノウハウを吸収。ヤマト運輸(ヤマトHD)、佐川急便(SGホールディングス)など大手が圧倒的なシェアを誇る業界にあって、小規模事業者をグループ化して運送エリアを確保しつつ、人件費や車両維持費など販管費を圧縮する独自の経営で事業を拡大。2015年度にはグループ全体で年商100億円に上った。
特に近年はECサイトが隆盛を極め、消費者は「欲しい物が早く届く」ことを求めている。大手物流企業はラストワンマイルで主導権を握るために物流センターを増設し、運送ネットワークを拡大。配送先ごとに細かなルートを選択できる体制を整備し、無駄のない輸送を実現している。
以下はamazonの物流センター占有面積と売上高をグラフ化したものだが、両者は綺麗に相関している。

また矢野経済研究所によれば、こうしたラストワンマイル物流市場は成長傾向。市場規模は2020年度に2兆円を超えると見られ、今後も競争が激化するのは確実だ。

今や注文した次の日には商品が届く時代。速さが求められる昨今の物流業界において、資本力にも人的資源にも乏しい中小企業が大手に太刀打ちするのは厳しい。
そんな中、阿部観氏は起業当初からグループ企業と経営を担うグループ内起業家の育成に尽力。時代に先駆けて関東、中部、関西、北海道、九州などに独自の物流ネットワークを広げていった。自らの物流事業運営ノウハウを体系化、それを起業家志望の人々に伝授し、自らのグループ企業を担う敏腕経営者へと育て上げる……そんな好循環が、中小企業の生存厳しい物流業界において一目置かれる物流グループを支えている。
阿部観氏のビジネスモデルの独自性
もちろん、これは他社が容易に真似できる事業モデルではない。物流企業として全国に事業所を立ち上げるのは簡単だが、問題はその運営を担う経営者の育成だ。
グループを拡大する主流の方法はフランチャイズ(FC)だが、FCビジネスには志願者の独立意欲が低いなどの懸念もある。本部が仕事をくれる、手厚いサポートをしてくれるなど甘い意識の人も多く、戦力となる人材を確保できる見込みはそこまで高くない。実際、物流事業に限らず、FCビジネスで成功を収めた中小企業は稀である。
阿部観氏が築き上げたビジネスモデル自体は、20年間軽貨物運送事業に従事してきただけではなく、現場、社員、グループ会社、顧客の求める多くのノウハウが詰まったビジネスモデルは一般的なFCビジネスと大きな違いがある。直近では阿部観氏がプロデュースした会社は1期目から年商13億円、2期目で18億円を売り上げており更に愛商塾の入会が増えている。独立志望者、別事業を考えている法人を集め、ノウハウを提供し、必要なサポートを行うというものだ。
ではなぜ、いわゆるFCビジネスの成功率が低い一方、阿部観氏のビジネスモデルは成功を収めているのか。
その要因は、経営者育成ノウハウの再現性と他社にない差別化を図っている。
経営者の育成については超一流経営者(パッションリーダーズ、未来塾)の先輩たちから
学んだ経営哲学を会員に落とし込み他では聞けない学べないノウハウが会員のスキルアップになっている。一般社団法人愛商塾においてパッケージ化された物流・経営ノウハウは、これまで多くの経営者を育ててきた。大半の起業家が独立から2〜3年で年商1億、年収1,000万を達成。今では関東・東海・関西・北海道・九州地方を中心に、グループ企業は100社を超える。

阿部観氏の著書『軽貨物運送で成功した10人の社長たち』には、阿部氏のノウハウを継いで独立した10人の体験談が掲載されている。中には異業種から移ってきた物流の素人が初月に手取り52万を達成した話もある。
FCビジネスで重要なのは「誰がやっても、同じ水準の仕事を提供できる」ことだ。東京のフランチャイジーと大阪のフランチャイジーの仕事のクオリティに差があってはいけない。それはブランドの毀損につながるからだ。東京の悪評は大阪のフランチャイジーの仕事を減らし、逆もまた然りである。
またフランチャイジーからしても、儲からなければやる理由はない。そのため事業としての再現性がなければ、人は集まらないし契約解除率も高まる。
そのためFCビジネスでは、ビジネスモデルの再現性が最も重要になる。
また阿部観氏は、あるインタビューで「このビジネスモデルの肝は人にある」とも語っている。
クレーム処理の不守備で、業績も悪くなるし、ドライバーも抜けていってしまう。どれだけビジネスモデルがよかろうと、やはり人次第です。対応の悪いコンビニに行かなくなるのと同じ。近くに別のがあるのならそっちに行こう、となってしまう。 それに気づいて『人間力の向上』を社訓にしました。
(引用は、BigLife21「愛商物流株式会社 – 阿部観 代表取締役の考える物流の未来」より)
昨今、EC拡大に伴って宅配のトラブルが増加している。
少し古いデータだが、国民生活センターが2015年に公表したデータによれば、宅配サービスに関する相談件数は増加傾向にあった。

荷物の破損・未配達などはもちろん、昨今は配達員の些細な対応ひとつがクレームにつながりかねない。SNS等の発展に伴い「ドアをきちんと閉めて帰らなかった」など小さな声にも共感者が集い、大きな批判ひいては炎上となった事例は多い。
また競争が激化する中で、物流各社は顧客獲得へ向けて「置き配」など様々な新事業をリリース。飲食業界が料理の宅配に乗り出すなど、いま輸送業は大転換期を迎えている。
しかし、その改革スピードに人の成長や事業モデルの整備が追いついておらず、ずさんな対応も多々見られる。事業の多様化に伴ってトラブルも多様化。委託者や消費者の視点から見れば、ビジネスに対してより誠実に取り組む事業者の価値が高まっていると言える。
物流業界は今、単に荷物を届ければ良かった時代が終わり、今まで以上にヒューマンスキルが求められる時代に入ったと言える。
そうした時代において、阿部観氏は人間力の向上に重きを置いた経営を意識してきた。自身がそうした姿勢を起業当時から心がけ、結果として人の縁に恵まれ、経営者として成功できたと自著で陳述。故にそれをグループの社員はもちろん、愛商塾の門を叩いた独立志望者たちにも強く求めていた。
結果、100社以上の誠実な企業から成る強固な物流ネットワークが出来上がり、それが今の時代にマッチした。こうした先見性や、それを再現性あるビジネスモデルに落とし込んできた手腕こそ、阿部観氏の最大の強みと言えよう。

先に引用したインタビューで、阿部観氏はこう語っている。
ヤマト運輸などが労基の問題などで手が届かない仕事がウチに来ています。例えばコンビニの早朝の集荷など。こういうジャンルは元々やれる人が少ない。しかしIT化が進み、それが物流の業界にもシフトしている今、大手の手が行き渡らない時間・場所をカバーするウチのような業種への期待は高まっています。楽しみですね。
(引用は、BigLife21「愛商物流株式会社 – 阿部観 代表取締役の考える物流の未来」より)
人格的な魅力が熱意ある起業志望者を引き寄せる
阿部観氏は言葉だけでなく、行動でも人格者である姿勢を示している。たとえば愛商塾の門を叩いた独立志願者に対して、いきなり運送用トラックの購入を迫ることはない。必ずレンタルで自ら提供し、誰でも一歩を踏み出せるような体制を整えている。
また2016年、児童養護施設のこどもたちの進学や就職を支援する「一般社団法人子供みらい基金」を他の事業家らと共同で設立し、理事に就任。ビジネス以外のフィールドにおける精力的な活動も、多くの人々から人望を集める一因だろう。
こうしたビジネス外の献身的な活動に対する共感などもあり、阿部観氏のもとには熱意あるビジネスパーソンが集い、次々と独立して成功を収めた。
一般的なFCは、会社へ不平不満を覚えて「なんとなく嫌になって脱サラ」といった人が集まることも多く、独立後もFC本部に甘えて気概が足りずに廃業といったケースが少なくない。言い換えれば、阿部観氏に人としての魅力があればこそ、彼の下には起業家として本気で成功したいビジネスパーソンが集まるのだろう。
阿部観氏自身が身を以て体験し、自らの事業を成長させてきた「誠実なビジネスが人を縁で結ぶ」相乗効果を、今度は自ら生み出し、多くの優れた起業家を輩出。物流業界にとって、いま最も注目すべき経営者の一人といえる。