1999年に創業し、今や全国に100社以上のネットワークを持つ物流会社がある。東京都港区に本社を置く、愛商物流(あいしょうぶつりゅう)だ。

革新的なビジネスモデルで急成長した愛商物流は軽貨物運送の雄として注目を集めている。ここでは、そんな同社の特徴を見ていきたいと思う。

愛商物流の成長を支えた革新的なビジネスモデル

愛商物流の成長を支えたのは、高利益率と物流ネットワークの急拡大を両立した画期的なビジネスモデルだ。

同社は、まずオーナードライバー希望者と個人事業主として契約し、愛商物流が仕事を割り振る。それぞれのドライバーは、独立採算・フルフレックスで仕事に取り組んでいく。

こうして、まず地元を中心にドライバーのネットワークを築き、事業を拡大する意欲がある個人事業主には、法人設立を支援して独立してもらう。独立した愛商物流ネットワークの法人たちは、新たに自社でオーナードライバーを雇い入れ、同様にドライバーのネットワークを広げていく。つまり、愛商物流のビジネスモデルを子や孫に継承していくのだ。

ピラミッド型の組織をベースとするモデル

愛商物流のようなピラミッド型の組織をベースとするモデルは、物流業界以外でもまず見られない。

このモデルには大きく2つのメリットがある。中小企業でも広大な物流ネットワークを構築できるのと、数の論理で経費を圧縮できる点だ。

加速度的に物流ネットワークを拡大

まず、このモデルは中小企業でも加速度的に物流ネットワークを拡大できる。それによって担当エリアが広がり、受けられる仕事も増える。また一社が対応できなくても、他の会社が穴を埋めることも可能。つまり、人手がなくて仕事を断ることも、不得意分野だから受けられないということもなくなり、効率的に仕事を回せるのだ。

高利益率を実現

そして、ネットワーク全体でタイヤやガソリンなどの必要備品、広告資材、求人広告などを共有できるため、数の力でコストを圧縮できる。これにより、販管費の重荷を抑えることができ、高利益率を実現できる。

同社が創業した当時、軽貨物物流ドライバーの月給は、平均で手取り20〜30万ほど、休みなくフル稼働して50万前後という状況だった。だが、愛商物流の専属ドライバーたちは、いわゆる一般的な午前〜夕方の働き方で、月50万以上を稼ぐ人も珍しくなかった。

60歳を超えたおばちゃんの給料の手取り金額を見たとき、あごがはずれるような衝撃を受けました。50何万円と記してあったのです。思わず「この人、寝ないで働いているんですか?」と訊いたら、「いいや、朝から夕方まで。夕方に終わって家に帰る」と言う。「なんだ、この違いは?」と思いましたね。(中略)60歳過ぎのおばちゃんがふつうに働いて軽く稼いでいる。「こんなのでいいの?」と思うわけですよ。

書籍「軽貨物運送で成功した10人の社長たち」より引用

ヤマトや佐川といった巨大な先行企業がシェアの大部分を握る物流業界にあって、中小後発にもかかわらず全国に広大な物流ネットワークを築けたのは、このビジネスモデルの革新性が大きな要因としてある。

独立後すぐに安定した売上が出るビジネスモデル

独立した会社の売上がすぐに安定するのも、同社のビジネスモデルの特長だ。愛商物流の場合、地元を中心に徐々にネットワークを広げていくことによりネットワーク上の各社に目が行き届きやすく、手厚いフォローが可能となる。

さらに、契約したドライバーが独立した際も同様の形でネットワークを少しずつ広げていくため、フォローが途切れることがない。

全国100法人を誇るネットワーク

愛商物流は、2020年10月時点で首都圏を中心に全国100法人、5,000台ぶんのドライバーを誇るネットワークを築いている。各社は連携しやすい首都圏というエリアに集中しており、それ以外は全国に独立した法人を頼りに広げ、それぞれのエリアのドライバーをフォローしている。

このようにピラミッド型のネットワークは、フォローが手薄になりやすいという課題を解消できる点でも革新的だ。こうした充実のサポートもあり、多くの会社が早期に売上を立てることができる。

2004年の10月に会社を設立しました。(中略)半年後の2005年4月には、月商1200万円くらいにはなっていました。1年たった時には、月商2000万円を超えていました。そのときのドライバーは45人くらい。

自分は平成12年に阿部社長のところに来て、翌13年に自分の会社を設立しました。(中略)。13年の暮れには月商1200万円ぐらいはありました。

書籍「軽貨物運送で成功した10人の社長たち」より引用

このように、わずか1年で軌道に乗る法人も多い。

やる気あふれる優秀な人を集めた創業者の人間性

ただ、いくらビジネスモデルが革新的であっても、それを担う人材が優秀でなければ、事業は大きくならない。

愛商物流の場合、この点は阿部ゆみこ氏(現代表)の人柄に負っているところが大きいと言える。

たとえば、愛商物流のネットワーク上にある会社で働き始めた社長の一人は、北海道から東京へ出てくる時の引っ越し費用を工面してもらったという。

それで半年計画で引越し費用を貯めようと決意しました。その次の日のことです。なんと、阿部社長が100万円振り込んでくれたのです。「この金で引っ越して来い」というわけです。驚きました。

書籍「軽貨物運送で成功した10人の社長たち」より引用

阿部ゆみこ氏による事業体制の大きな改革

また2020年現在、代表を務める阿部ゆみこ氏は、同社の事業体制を大きく改革してきた。たとえば、同社は「仕事を断らない」をモットーとしており、その姿勢が顧客の評価を集めている。これは、ゆみこ氏の方針で社内スタッフ全員がドライバーと密にコミュニケーションを取り、仕事を断られないように尽力している点が大きい。

Webサイトの充実に努める

また、これまでテレアポや飛び込み営業で仕事を獲得してきた同社は近年、Webサイトからの依頼が増えているという。これはWebサイトの情報の充実に努めた結果だが、販管費の減少にもつながり、そのぶんドライバーたちへの報酬に還元できているという。

年齢層に応じた仕事のマッチング

このほかにも、年齢層に応じた仕事のマッチングなど、よりきめ細かな対応に注力するなど、ドライバーの働きやすい環境づくりを心がけているという。そうしたゆみこ氏のドライバーを思う姿勢が、同社に優秀な人材が集まる理由の一つと言える。

こうして多くの優秀な人材が集まり、彼らが業績を上げてネットワークを広げるにつれ、その噂を聞きつけて、同社で働きたいという人材も増えていった。

愛商物流から巣立った多くの物流系企業

今では、愛商物流から巣立った多くの物流系企業の経営者が、それぞれ斬新なビジネスモデルを打ち立てて順調に会社を成長させている。定期便などをいっさい持たず、営業もかけない「ノー営業・顧客ゼロ」経営で年商1億を超えた会社。代表たった1人で、軽貨物・利用運送・倉庫業務の3事業を回し、業績を拡大させた会社。それ以外にも、物流業界の常識では考えられない法人が次々と誕生した。

このように、革新的なビジネスモデルと創業者の人柄というハードとソフトを活かして、愛商物流は大手がシェアの大部分を占めていた物流業界に新風を吹き込んだ。その歴史は物流関係者のみならず、幅広い世界の経営者や起業家にとって、とても有益な知見となるだろう。

参考サイト

愛商物流の会社情報(Wantedly) - wantedlyにある愛商物流の紹介ページです。主に会社情報が紹介されていますが、出版記念パーティーやゴルフ大会などのイベント写真が紹介されており、仕事仲間同士仲が良さそうなのが伝わってきます。

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